闇にとける光~最終章~

答えの代わりに微笑むと、
静流はおもむろに大きくシャツの前をはだけた。

そのままグイッと引き、
肩口まで見えるように横に広げる。

「あ!」

今まで見たことはなかったが、
左の肩に丸い穴が並んでふたつ、
まだ血も乾かないそれは
「噛み痕?!」

すぐにシャツを戻し静流はまた微笑む。
「そうだよ。
 これは後ろの御仁の歯型だよ。
 もっとも・・・
 色気も何もあったもんじゃない上に、
 本当に痛いんだよ」
困ったように、
肩をすくめて見せる。

「何で?」
事態がまだ飲み込めない。

「これはね、
 敵対する相手かもしくは、
 余程、
 嫌っている相手に対して行う、
 妖かし流の戦い方・・・とでもいうのかな」
「・・・はあ?」
「一種の嫌がらせなんだよ。
 妖かし同士で血を吸うと、
 吸われた相手は10年の間、
 眠ることも、
 糧を得ることもできなくなるんだ。
 だから、
 愛し合うつがいの妖かし達は絶対にそんなことしない。
 己の欲求が満たされる代わりに、
 最愛の相手が苦しむことになるんだからね。
 桜子たちがそうしないのは、
 だから当然なんだよ。
 僕たち妖かしはとても情が厚い。
 一度伴侶と決めた相手とは、
 死を以てしか離れることも、
 心が揺らぐこともない」
「じゃあ・・・静流・・・」
ぎゅっと手を握り返す。

『僕の為に自分の十年をくれた』

「ふふ
 優しい圭のことだから、
 そうなったらもう、
 死ぬまで僕のことを恩にきてくれる。
 つまり僕から離れられないってことだね」
心底嬉しそうに目を細める。
「静流・・・」

「・・・おい!」
ぐいっと圭の体を抱き寄せ、
完全に静流の手から圭を奪い返すと、
紫鬼は唸るように叫んだ。

「っと・・・
 本当に欲深だね。
 そんなんじゃいつか圭に嫌われるよ」
肩をすぼめつつ静流が、
わざとらしいため息をついた。

「欲深で結構だ!
 今回のことがあるから、
 これで充分に借りは返したはずだ!
 でなければ誰が貴様なぞに圭の手を取られたままに・・・」
「あ~あ・・・、
 何で僕がこんな、
 まだお昼寝しないといけないような坊やに、
 ひどいこと言われなきゃいけないの?」
「!
 それは・・・今から習得すれば済む話だ。
 今までは圭がいなかったから、
 それはむしろ邪魔な能力だったんだ!」
「なら僕は今まで通り、
 ゆっくり昼間のデートを楽しもう」
ウキウキと、
恐らく本気で答える静流に、
紫鬼が目を吊り上げる。

「それってもしかして、
 紫鬼が昼間に動けないことを言ってるの?」
「そうだよ」
爽やかに微笑んで、
再び手を握ろうとしてきた静流を避けようと、
背後から羽交い絞めるように圭を抱きしめていた紫鬼が、
圭の体ごとさっと横によける。

「・・・本当に狭量な男だね・・・」
忌々しそうに背後をにらむものの、
すぐあの優しい笑顔で圭に微笑みかける。
「昼間に実態を保つのは、
 ものすごいテクニックと妖力が必要なんだ。
 ただ残念なことに、
 昼間はほとんどの能力が、
 実態を保つことだけに集中してしまうから、
 ほとんど普通の人間と変わらなくなってしまうのが難点だね」
「え?!
 じゃあ陽の光を浴びても大丈夫なの?!」
お日様の下を歩く吸血鬼なんて聞いたことがない。
・・・もっとも、
この人たち以外の吸血鬼に会ったことはないけれど・・・。

「なんなら夏には海水浴にでも行く?
 一緒ににんにく料理を食べてから、
 教会で結婚式を挙げよう」
「はは・・・」
後ろの殺気が半端じゃない。
それを分かって静流は挑発している。

「あ・・・でも」
ふと思いだす。
「静流と昼間に会う時はいつも、
 真っ暗な部屋だったよね?
 やっぱり暗い方がいいの?」
抱きしめられる腕に、
一気に力がこもったが、
ひるまず続ける。
「ああ・・・あれは、
 実態を取りつつ結界を張るのに必死で、
 隠しきれないこの目を見られない為だよ」
妖しく目を青く染めてみせる。

「貴様・・・例の糧はどうするんだ。
 放っておく貴様ではないはずだ。
 いかな貴様とて、
 二人を一度に守ることは不可能だ!」
「あ・・・」
『そうだ・・・確か・・・』

「瀬名?
 あの子なら無粋にも君が僕の店に飛び込んできた
 あの日が最後の日だったんだよ。
 折角の静かな別れを台無しにしてくれたね」
にっこりほほ笑む。
「君はまだ、
 僕が親切心だけでこんな痛い思いまでして、
 血を分けたと思ってるの?」
「何・・・?!」
「君は確かに、
 圭が自分から余程の誘惑をしない限り、
 我を忘れて圭に襲いかかる・・・
 って程の空腹はなくなった」

『余程の誘惑』・・・という言葉に、
圭は密かに顔を赤らめる。
まさか静流も、
初めて紫鬼に会った時に経験済み・・・
とは夢にも思わないだろう。

「でも僕には昼がある」
「それがどうした。
 圭が会わなければ済むことだ。
 分かってるな?!圭」
急に向き合うようにされ、
有無を言わさぬ目で射抜かれる。

      ひょい

その一瞬の隙を逃さず、
今度は静流が圭を後ろからしっかりと抱きしめる。
「貴様!」
「こういうことだよ」
言うなりすりすりと、
圭の髪に頬を寄せる。
「君が眠っていようがいまいが、
 僕は奇しくも、
 『眠らぬまま人を傷つけない』
 と言う技を得たんだよ。
 どういう事か分かる?
 君が圭にこ~~んなことしたら、
 一気に理性が吹っ飛んで、
 この綺麗な喉に牙を立てかねない・・けど
 僕は違う。
 そうしたくてもできないんだからね。
 つまり・・・
 圭さえその気になってくれたら、
 僕はいつでも圭を抱くことができるんだよ。
 まあ・・・飲めないまでも、
 あんまり可愛いと、
 うっかりかじっちゃうってことは、
 あるかもしれないけど・・・」
「貴様・・・初めからそのつもりで・・・!」

今度は静流に後ろから抱きしめられているため、
紫鬼の顔がはっきり見える。
『見えない方が良かったな・・・』

怒りで全身が震えている。
その顔は蒼白だ。
こんな時、
僕がひとこと
『静流には二度と会わないから大丈夫』
・・・と言ってあげれば良いのだろうが、
やっぱりどうしても、
僕は静流も嫌いにはなれない。
抱く・・・云々は別として、
これからも時々会って、
優しくされたいし甘えたい・・・
と思ってしまうのは、
僕の我儘だろう。
だけど、

この先の十年は静流に貰ったのだから。
僕と紫鬼の未来もできたのだから。

「ねえ紫鬼」
「なんだ」
相変わらず僕の頭の上を睨みながら、
ぶっきらぼうに答える。
「静流と喧嘩する前に、
 早く昼間にも活動できるようになればいいんだよ。
 そしたら・・・、
 ずっと自分で守れるでしょ?
 ねえ静流、
 それってすぐできるようになるの?」
「そうだね・・・、
 紫鬼がずば抜けた天才で、
 しかも死ぬ気で努力して・・・
 100年・・・ってとこかな」
「じゃあ僕が生きてる間には難しいね」
「・・・・・・」
黙っている所を見ると図星のようだ。
「だったら尚更、
 これからも、
 静流のお世話になることがあるはずだから、
 仲良くしとかないと・・・ね?」
苦虫を噛み潰したような顔で、
押し黙ってしまった。
振り仰いで見た静流もまた、
複雑そうな表情だ。






       幸せなのは僕くらいだろう。
       明日も
       明後日も
       その次も
       生まれ変わったその先まで、
       もう僕は一人じゃないから。
       『可愛いおじいちゃん目指さないと・・・』
       一人そんなことを考えつつ、
       再び頭上で始まった言い争いを、
       静かな笑顔で受け止める僕だった。







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この記事へのコメント

るき
2012年05月23日 20:29
読みましたよ~。
BLって言うからもっとエロエロしいのかと思いきや、相手を想うが故に手を出せない、というのが切なくて素敵でしたー(o´ω`o)
登場人物がそれぞれ皆優しいのは、作者に似たんでしょうね^^面白かったです。ありがとう♪

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